<×game …・下> 
 



 自室でガンプラ作りに勤しんでいたケロロは、つけっぱなしのモニターを何気なく覗いて、しみじみとため息を漏らした。
「あ〜あ…、ギロロの裏モードにスイッチ入っちゃったよ。」
 そこに映し出されているのは、クルルの自室兼研究室だ。この監視カメラの存在を、クルルは今も気がついていない。
「一応、我が輩はこれでも隊長でありますよ。」
 まるで言い訳するようなケロロの呟きに、背後から聞き慣れた声で返事があった。
「ケロロ君、のぞき見は良くないよ。」
「やあ、ドロロ。」
 ケロロは特に驚いた風でもなく、親しげに声を掛けた。
 ドロロが作戦会議でもないのに、日向家へやってくるのは珍しい。きっと、クルルの変調を察してそれとなく監視をしていたのだろう。おそらくは地下基地での一悶着についても知っているに違いない。
 ドロロはモニターに映し出された光景に眉を顰めた。覗きは良くないと言っておきながら、そこから目を離せないでいるようだ。
 しかし、それも仕方のないこと。
「そうだね。…でも、クルルの奴、大丈夫かねぇ〜。我が輩も、あの時は枯れるかと思ったでありますよ。」
 その『あの時』を思い出しているのか、ケロロはニヤニヤと下世話な笑いを浮かべていた。
「じゃぁ、ケロロ君も経験済みなんだ。あの、ギロロ君を…?」
 ドロロの意味ありげな問いに、ケロロは眉を上げた。
「我が輩『も』、ってことは、ドロロ『も』なんだ。ふ〜ん…。」
 ケロロの声色が変わる。互いに顔を合わせないまま、腹の内を探り合っているのは明らかだった。 
「…クルルは、ちょっと懲らしめてやる必要があると思わない?」
「同感でござるな。」
 ドロロの口調が友達のそれから、同胞すら恐れるアサシンに変わった。
 クルルとギロロの関係は知っている。ギロロが受け入れていることも。二人に反対する権利がないことも。
 でも、それはそれ。これはこれだ。特に、ギロロとの付き合いは彼らの方が長いのだ。
「ゲロゲロゲロ…。明日からが楽しみでありますな。」
「ほどほどにね、ケロロ君。やりすぎると、今度は僕たちがギロロ君に恨まれるよ?」
「もちろん、加減は分かっているでありますよ。伊達に『隊長』はやっていないであります。それよりも、クルルが無事でいられるかが心配でありますな。」
 モニターの中では、口にすることさえはばかれるような、壮絶な光景が繰り広げられていた。
 ドロロも青い瞳に映しながら、気の毒そうに呟いた。
「そうだね。でも、自業自得だよ。」
「我々(年長組)を甘く見るからであります。」
 ケロロは何を想像したのか、楽しげな笑みを浮かべてモニターの電源を落とした。
 それからケロロは再びガンプラ作りに没頭して、ドロロは煙とともに何処かへ消えていった。
 
 
 
 
 
 
 これまでギロロは、ただ大人しくいいようにされていたわけではない。行為の度に同じ場所へ連れ込まれていれば、誰だって何がどこにあるのかぐらいは把握が出来る。
「くっ…。」
 クルルの自室にもなっているラボには、いつもとは違ってクルルのうめき声が聞こえていた。
「気分はどうだ。お前自慢の特製興奮剤だ。よく効くだろう?」
 ギロロはクルルを真似てくつくつと喉を鳴らした。
 クルルは目の前の男を憎らしげに睨み付けるのが精一杯だった。
 あれからここへ連れ込まれたクルルは、ギロロによっていつもは自分がしていることを、身をもって体験する羽目になっていた。
 もはやギロロ専用だと言ってもいい可動式の椅子に座らされ、天井や床に備え付けられた金属の触手で手足を拘束される。
 挙げ句の果てには、新薬の実験、と称して散々ギロロで試してきた、催淫剤の類まで使われた。
 身体を突き抜けるような激しい衝動に、クルルは脳の神経が焼き切れるような気がした。我ながら大した出来だと感心する余裕はない。
「くそっ…。」
 クルルは必死に奥歯を噛み締めた。少しでも気を緩めたら、みっともない姿をさらしてしまいそうだ。もちろん、クルルだっていつもそれを狙っている。
 こんな衝動をギリギリまで耐えている、ギロロはやはり化け物だと改めて思い知った。
「辛そうだな?」
 ギロロはニヤニヤと、本来ならクルルが浮かべているはずの嫌な笑みを浮かべて近づいた。薬の作用で通常の何倍にも敏感になっている肌には、堪らない刺激になることを知っていて、ギロロはクルルの首筋から頬を撫で上げた。
「くっ…。」
 ゾクゾクと這い上がるような快感に、クルルの身体が震える。
「調子に乗るなよ、オッサン…。」
 クルルは意識を必死につなぎ止めながら、呪いの言葉を吐いた。この部屋はクルルの領域だ。いつまでも好きなようにはさせておかない。
「あんたは、俺に抱かれて、ヒィヒィ言っている方がお似合いなんだ。」
 クルルは強がって歯を食いしばる。
「お前も大概素直じゃない。」
 情事の最中、プライドが邪魔をして、なかなか快楽に溺れることが出来ないギロロに向かって、クルルはことあるごとに素直になれと言っていた。そのために、色々な薬物まで使ってくれる。もしかしたら、それはクルルなりの思いやりだったのかもしれない。
「クルル…。」
「うくっ…!」
 この薬に犯されていると、相手の声にすら過剰な反応を示した。ギロロの低音はそれでなくても効果的だ。耳元で舐めるように囁かれて、クルルは目眩さえ感じた。
 クルルは最後の理性で抵抗を試みた。
 ラボに仕込まれているギミックの類は、音声認識もついていた。早く立場を逆転させて、思い切りぶちまけてやりたい。
 クルルは圧倒的な快感に耐えながら、なんとか命令を言葉にしようとした。
 ところが…。
「ぐむっ…。」
 口を開いた途端、ギロロの指が押し込められた。まさぐるように口の中をかき回される。
「んんっ…!」
「クルル、今日ぐらいは大人しくやられていろ。」
 ギロロは指でクルルの口腔を犯しながらゆっくりと身体を寄せてきた。
 音声認識のことなど、とっくにお見通しだった。
「今日は枯れるまで付き合ってもらうぞ。」
 ギロロはまさに妖艶と称するような、いつもの情事の時ですら見せたことのない、妖しげな微笑を浮かべていた。
 眼鏡越しの瞳を捕らえて放さず、クルルの唾液にまみれた唇を舐め上げた。指の代わりに濡れた舌を差し入れ、隅々まで余すところなく犯していく。歯列をなぞり舌を吸い上げ、唇を喰らう。飲み込みきれない唾液が、顎を伝って首筋に流れた。
 ギロロの右手はそれを塗り込めるように、胸元を這い回った。
 ポイントを的確に掴んだギロロの愛撫に、クルルはあっさりと流されてしまいそうだった。
 元々ギロロの愛撫は巧みだ。クルルと初めてそうなったときにも、ギロロは既に男を知っていた。長く戦場にいればそんなこともあるだろう、とクルルは自分に言い聞かせてきたが、今ほどギロロにこれを教えた男を知りたいと思ったことはない。
「ふっう…。」
「まだまだこれからだ、クルル…。」
 ギロロはクルルの口腔をたっぷりと弄んだ後、唾液の流れに沿って首筋に吸い付き、胸元を啄んで下腹部へと降りていった。
 クルルの拘束されて自由にならない膝を割り、間に身体を滑り込ませた。
「好きに出来ない気分はどうだ。こんなのも、たまには良かろう?」
「ぐっ…うっ……。」
 クルルは過ぎた快感に耐えるのがやっとで、音声認識のコードを発することも出来なかった。声を上げたらそれは、喘ぎ声になりそうだ。
 自分以上に強情を張るクルルに、仕方がない、とでも言うようなニヤッとした笑いを浮かべて、ギロロは顔を足の付け根へと近づけた。
 ケロン人の生殖器は、普段は皮膚の下に隠されている。
 クルルのそれは意志に反して、大きくなって身体の外に飛び出していた。
 既に透明な滴を零すそれに、ギロロは迷わず吸い付いた。
「なっ…?
 クルルの驚きに上げた声は期せずして裏返っていた。
 いつもは強制してもなかなかやりたがらないのに、今日に限って積極的なのは何故なのか。それともこれが本性なのだろうか。
 指の先まで駆け抜けた、電流のような快感に、クルルの身体は強ばった。爆発を耐えるように、縛り付けられている椅子の腕を握りしめた。
「くふっ…うっ……。」
 ギロロは濡れた音をわざとさせながら、クルルの熱くなったそれを頬張った。
 根本を押さえつけて、先端に向かって舌を這わせていく。くびれた部分を裏側から吸い上げて、溢れる滴を塗り広げるように手のひらで扱いた。
「チッ……。」
 クルルは苦しげに息を吐いた。
 ケロン軍の兵士なら誰もが知っている、敵からは戦場の赤い悪魔と言われ恐れられたあのギロロが、男のモノを自らくわえて熱心に奉仕をしている。いつもならこれ以上の愉悦はないだろう。しかし今はそれが、拷問となっていた。一方的にいかされるなど、クルルのプライドが許さない。
 クルルが必死に足掻いていると、ギロロは不意にそこから唇を放した。突然の解放にクルルは戸惑う。訝しげに見下ろすと、ギロロはそれを待っていたように、再びクルルのモノを今度は根本まで飲み込んでしまった。
「……っ!」
 目の前で、自分のモノがギロロの口腔を犯している。クルルは咄嗟に上がりそうなになった声を寸前で噛み殺した。
 口内の熱い粘膜が搾り取るように絡みつき、柔らかな舌が別の生物のように舐め上げ、締め付け、蠢いた。
 ギロロの愛撫は容赦がなかった。全ての神経が焼き切れそうだ。
 クルルは爆発の予感を感じた。目の前にはチカチカと星が瞬き、全身の筋肉が痙攣を起こす。
 これ以上の我慢は、クルルには出来なかった。このままでは間違いなく精神を持って行かれてしまう。
 クルルは快感に屈した。
「オッサン…。」
 それでも発する声が悲鳴にならないよう、残りの精神力を総動員させて強がってみせる。
「オッサン、頼むから、いかせろよ。あんたの中に、突っ込ませろ…。」
 クルルを拘束している金属の触手は、ギロロでさえ引き千切ることは出来ないのだ。そのことは設計者であるクルルが一番知っている。それでも自由になろうと藻掻かずにはいられなかった。
 自由になって、この男を思いきり泣かせてやりたい。
「もうギブアップか。根性が足りんな。」
「うるせぇ…。あんただって、早くこいつが欲しいんだろう。」
 切羽詰まったクルルは、恥も外聞もプライドもかなぐり捨てた。今はただ、腹の中で渦巻く熱いものを一秒でも早くぶちまけたいだけだった。
「クルル、もう少し品良くできんのか。」
「ぐっ…。」
 ギロロは粗相を咎めるように、クルルの限界まで張りつめたモノを握った。クルルは走り抜けた痛みに顔を歪ませた。しかしそれは直ぐに、前以上の快感に変わってクルルを余計に苦しめた。
「…頼むから、オッサン。」
 このままでは本当におかしくなってしまいそうだ。せめて両手だけでも自由になれば、しがみつくことも出来るだろうに。
「クルル。」
 ギロロは満足げな笑みを浮かべた。素直じゃない男の、素直な欲求は心地がいいものだ。
 ケロン人にとっては弱点でもある、腹の柔らかな皮膚に吸い付いて赤い痕を残した。これでしばらくは外出も出来まい。
「クルル…、こいつをぶちまけたいか?」
 ギロロはクルルの身体に満遍なく口づけを施しながら、拘束しているイスを施術用のベッドへ変形させた。腰にまたがって、天をつくほど立ち上がったクルルのそれを手のひらで包み込む。
「ああ…。」
 クルルは擦れた声で頷いた。ギロロは妖しく笑う。
「どこにぶちまけたい?」
 ギロロは片手でクルルのモノを掴み、片手で自らの背後をまさぐった。ケロン人の身体は地球人とは違って、排泄肛と交接肛が同じに出来ている。そのため欲情するまでは、男女の性別が分からないことがよくあった。男のそこでも、慣れてくれば女性のように濡れて、他の男を受け入れやすくなることがあった。
 ギロロのそこは粘り気のある透明な滴で、泉のように潤っていた。そうなるようにし向けたのはクルルだ。
「どこにだ、クルル…。」
 言葉でいたぶるのは、クルルの性癖だった。身体は慣れても、行為そのものには慣れない、ギロロの羞恥心を煽るのはやけに興奮した。
 それがまさか、逆の目に遭わされるとは思ってもいなかった。
 セックスを覚えたばかりのガキのようにがっついてるこんな余裕がない姿など他には絶対見せられない。
 ギロロは挑発するように、クルルの耳元で熱い息を吐いた。浮かんだ汗を吸い取るように、啄むだけの口づけを繰り返す。
 クルルはようやく口を割った。
「あんたの中にだ…。早く入れさせてくれ……。」
 クルルのモノは限界を訴えてビクビクと震えていた。このまま放置されたのでは本当におかしくなってしまう。
「素直なお前は、嫌いじゃないぞ。」
 ギロロは満足げに笑って、クルルのそれを自分で蜜の滴る背後に添えた。
「でも、せめて名前ぐらいは呼んだらどうだ?」
 焦らすように先端だけを含ませて腰を揺らしていた。たったそれだけのことでも、クルルは脳髄まで痺れるようだった。
 強烈な快感の前に、プライドなど何の意味もない。本能に従うだけだった。
「ギロロ…先輩……。」
「良くできたな。」
 ご褒美だ、と言って、ギロロは一気に身体を沈み込ませた。繋がった箇所は僅かなのに、全身が絞り込まれるようだ。
「ああっっ……!」
 クルルは悲鳴のように喘ぎ声が上がるのを止められなかった。
「くうっ…。」
「気持ちがいいか?」
 犯しているのに、犯されているような気分で揺すぶられて、頷くことしかできなかった。
 意志があるように絡みつく熱い粘膜は、抱き慣れた身体なのにまるで別人のようだ。
 手足を拘束され、されるがまま突き上げるだけの自分は、さぞや滑稽な姿をしているに違いない。
「ふっ…クルル……。」
 ギロロの声にも甘い響きがにじんでいた。半眼の瞳に情欲の炎が揺れている。ギロロの動きが激しさを増す。
 昔から性的なことには淡泊だった。生産性のない男同士の行為に、いったい何の意味があるのか理解に苦しんでいたが、クルルとの関係はこれまでとは少し違っていた。
 毎回無茶を強いられるが、それでも嫌には思っていない自分がいた。
 ただ一言素直に求めれば済むことなのに、毎回回りくどい策をめぐらしてことに及んでいる。他人に無関心を装うこの男が、それを悟られまいとしながら、まとわりついてくるのは中々気分が良かった。
「あっ…ぐっ……。」
 クルルを飲み込んだ場所は熱く熱を持って、擦られるたびに互いの肉の境目が分からなくなる。このまま溶け出して一つになりたいなどと、思ったことはないが似たような錯覚には陥った。
「オッサン……。」
 上擦ったいつになく余裕のないクルルの声が、身体の下から聞こえてきた。
「もう駄目…。限界……。」
 コントロールの出来ない快感は苦痛と紙一重だ。クルルは無意識に力を込めていたのだろう。拘束された手首に擦過傷が出来ていた。あまり無理をすれば、キーボードを打つにも支障が出るだろう。
 ギロロはクルルの戒めを解いた。
「オッサン。」
 しかしそれでも、快感に麻痺した身体は直ぐに動けないでいた。ギロロに易々と押さえつけられて、更に貪り尽くされる。
「うあっ…!」
 熱い粘膜が吸い付き、絡みつき、プライドも思考も何もかも搾り取る。
 爆発を促されて、クルルはあっけなく熱を解き放っていた。頭の中が悪酔いしたときのようにじんわりとにじんでいる。
「クルル…。」
 ギロロの呼びかけに、クルルは子供のように無防備な眼差しを向けた。意識はまだ快楽の彼方にあるようだ。
 唇の端が楽しげに持ち上がる。ギロロはまだ満足していなかった。クルルに使った薬の効果も切れてはいない。ギロロの身体の中で、大きさを取り戻しているのが分かる。
「クルル、まだまだこれからだ。言っただろう。お前が枯れるまで、付き合ってもらうとな。」
 ギロロが妖しく笑う。クルルは視線をそらすことが出来なかった。
 再び動き出したギロロに、クルルは彼岸の彼方を見たような気がした。




          
 >  > 下

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橘屋さまからいただきました。

中盤までは呪いをかけられ殺しあうヘンゼルとグレーテル、
ところがどっこい、強いはずの魔女の負け…。
(…すみません、かなり個人的な感想です;)
ケロロとギロロ、一枚も二枚も上手です。

そしてそして、最後には おしおき伍長とお願い曹長です。
設定だけ聞くと斬新さにびっくりですが、
読むと、なるほどしっくり!
クルルの若さっていうのも、いいですね!
エロス部分がまたすごかったです〜。

そして盛り込まれた設定にも、これ!という独自の世界観があり。
とても読み応えがありました!

新しい萌え、素敵なクルギロをありがとうございましたv